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15年前のいじめ被害「今も夢に」 無視、机に花…高校転校 女性「学校目を背けないで」

6/1(火) 11:03配信 熊本日日新聞

「当時のことを今も夢に見るんです…」。県央在住の女性(30)は、公園のベンチで自らの震える手をぐっと握った。熊本市の県立高生だった15年ほど前。教室に入ると、自席の机に花が置かれていた。同級生からの無視や陰口にも苦しみ続けた。記憶をたぐりながら語る女性のかたわらで、長女(5)がお菓子をせがんだ。

 女性が同級生から嫌がらせを受けるようになったのは、高校に入学した2006年の夏休みが明けたころ。学級委員長だった女性が、「クラスメートが複数の同級生に無視されている」と、担任教諭に相談したのがきっかけだった。無視の対象が女性に代わり「ちくり」「偽善者」と陰口をたたかれるようになった。インターネットの掲示板「学校裏サイト」にも中傷の言葉が並んだ。

 学校を休みがちになり、修学旅行にも参加しなかった。同級生が修学旅行に出発した日、自習のために登校すると、教室の最前列の自席には、どこかでつんできたような花がいくつも置かれていた。黒板には「私たちだけで楽しんで来るね」という趣旨の言葉が書かれていた。

 それまで無視や陰口を「ひどい嫌がらせ」と受け止めていた女性は、初めて「いじめ」だと確信した。その場に母親を呼び、複数の教諭も机上の花と黒板の文字を目にした。ただ、ある教諭は「これが百歩譲っていじめだとしても、いじめられる方にも問題があるんじゃないですか」と言った。

 そのひと言で限界に達した。精神的に追い込まれながらも、「大学進学のために」とできる限り登校してきたが、2年生の途中で通信制高校へ転校した。大学へは行かなかった。

 それから14年。ずっと胸の奥に押し込んでいた経験を、熊日の「SNSこちら編集局」(S編)に、語ろうと思ったのには理由がある。自身が通った同じ高校で、在学時にいじめを受け転校を余儀なくされた男性(22)の記事を目にしたからだ。学校の一連の対応が「いじめ問題から目を背けている」と自分の経験と重なったからだという。

 記事の男性は15年に同校に入学。同級生から髪のことをからかわれたり、机やバッグを汚されたりして不登校になり、2年時に転校した。高校側は同級生の行為と不登校の因果関係を否定し、調査情報を開示しなかった。

 このため、男性と母親(56)は18年、県弁護士会に人権救済を申し立て、20年12月、いじめ防止対策推進法の「重大事態」と判断された。県教育委員会も今年に入ってようやく、調査委員会の設置を決めた。

 女性は仕事と子育てに追われる日々の中、今も高校時代の記憶に苦しみ続けている。「娘が大きくなったとき、自分と同じような被害に遭ってほしくない。同じ思いをする人を一人でも減らすためにも、学校側にはいじめと、その加害者にきちんと向き合ってもらいたい」と訴えた。(原大祐、澤本麻里子)

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