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子供を「生きづらい大人」に育てない親の心構え、必要なのは「すぐに正解を教えない」こと

いじめを受けた子や発達障害の子を多く受け入れたにもかかわらず、不登校ゼロを達成し、「奇跡の公立小学校」とまで言われた大阪市の大空小学校。同校の初代校長として9年間、多くの子どもたちを育てた木村泰子氏が「子育てについて大事なこと」を明かす。
第1回のテーマは「子どもにすぐ正解を教えてはいけない理由」について。書籍『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』より一部抜粋・再構成してお届けする。


 全国のセミナーで、あるお母さんに聞きました。

 「子どもが帰宅して『授業中、暴れる子がいて、うるさくて授業できへんねん』と言ってきたら、どう答えますか?」

 そのお母さんは、暴れる子のことを思っているつもりで、「『そんなん言うたらあかんで』と子どもに言います」との答え。

■子どもにすぐ正解を教えてはいけない理由

 これってよくある「思いやり……」という大人の正解ですよね。でも、まさに排除の論理なんです。私たち大空小学校の教師も最初はそうでした。「人を大切にする力」をつけるコツは、「親が正解を言わないこと」です。意外かもしれませんね。

 親は(教師も)、正解を言わなければいけないと思っているものです。さっきの「そんなん言うたらあかんで」という言葉は、そんなこと言ってはいけません、という指示命令です。その裏には「あの子はかわいそうな子」という言葉がある。つまり、「あの子はあなたと違ってかわいそうな子、格下の子」という差別が生まれます。

 「そんなん言うたらあかんで」のたった一言で、その価値観を植え付けてしまうのです。

 「ねえねえ、その子って迷惑をかけようと思ってやってるの?  それとも困ってるの?  どっちなんやろうね」と問いかけてはどうでしょう。

 ここから親子の対話が生まれます。

 「そんなん言うたらあかんで」と言ってしまったら、そこで対話は終了です。「人に迷惑をかけてはいけない」という今までの教育は、これと同じことをやってきたんです。

 知らず知らずのうちに子どもに、他者を排除していく価値観を植え付けていたことに、どうぞお母さん、お父さんたちは気づいてほしい。

 人が人として生きていく中で、正解なんてありません。想定外の中で子どもがどう生きるか。子どもに「ああしろ、こうしろ」と指示命令をして、親の言うことを聞く子どもをつくっていたら、子どもは自分の命も隣の人の命も守れない大人になってしまうのでは、という危機感からスタートしなくてはいけないと感じます。

子どもに「人を大切にする力」をつけたかったら大人が正解を言わないこと、と言いました。それは同時に、正解がないからこそ、問い続ける必要があるということです。この正解のない問いを問い続ける力は、10年後の社会で生きて働く力になります。

 正解があると、問わなくなるでしょう?  まずは大人である母ちゃんが、常に「これでいいかな?」と自分に問い続けてみてください。簡単ですよ。問い続ける子どもをつくるのも簡単です。母ちゃんが「あんた、どう思う?」と聞くだけでいいのです。大人の思っている正解は正解と違います。たかが一人の大人の経験値で、未来のことなんてわからない。1分先のことさえわからないし、地球が潰れるかもしれない。

■大事なのは「正解を問い続ける力」

 正解が通用しない社会に出くわしたら、子どもは前に進めません。ついでに言うと、大人が正解を持っているのに正解を言わない努力をしているのもアウト!  大人は、自分の過去の経験値や成功体験を正解にしているだけ。「言わないだけで、やっぱり正解持ってるやん」っていう時点でアウトです。

 〝正解を問い続ける力〞が、見えない学力なんです。

 親自身も案外、「これって正解じゃないよね」と気づくことがありますよね。たとえば、横並び主義や同調圧力、偏差値至上主義、人に迷惑をかけない、などなど。子どもが生きづらくなるから、つい、「こうしなさい」と言いたくなる気持ちもわかります。私もそんな親でしたから。

 でも親の自分も「ああ、そうか」と気づいて自分を変えていく。この正解を問い続ける親としての自分を変えていく覚悟は、お金もいらない、他者の力もいらない、自分だけでできること。この覚悟は、子どもを大きく変えていきます。

 子どもに言うことを聞かせようとしているお母さん、お父さんは多いでしょう。言うことを聞かせようとするから子どもは納得せず、そっぽを向くんです。

 反対に、言うことを聞かせようとすることをやめると、子どもは「ねえねえ」と勝手に寄ってきます。どういうことかというと、子どもが何を言っても、一言も口をはさまず、とにかく子どもの言うことを、「聞く」「受け止める」こと。これ、本当ですから、ぜひ家庭でやってみてください。

自分の言うことを聞いてくれそうだと思ったら、子どもが大人に寄ってくるのは当たり前なんです。

 たとえば「今日、学校でAちゃんが暴れて大変だった。何とかしてー」と言ってきたら、まず、「ああ、そうなんだ」と受け止める。「そうなんだ」と一度受け止めただけで、「おお、聞いてくれた」と子どもは思います。

 いったん受け止めることをせず、「そんなことを言っちゃダメでしょ」などといきなり正解を言ってしまったら、それで対話は終わってしまいます。

■反抗的な息子が変わった瞬間

 この話をあるお母さんにしたら、親子の関係性が変わり、対話が生まれたそうです。そのご家庭では、息子がゲームをやめず、「ゲームをやめなさい!」と毎日のようにケンカになっていました。

 息子さんは、ゲームの話だけはよくお母さんにしていたそうです。でも、ゲームが嫌いなお母さんはゲームの話なんか聞きたくない。口を開けば、「いつまでやってるの!」「宿題は?」という小言や指示命令ばかりでした。

 ある日、意を決して、子どものゲームの話を(我慢して)最後まで聞いたそうです。そうしたら、息子さんが「ねえねえ」と言って、面白い動画をお母さんに見せに来たそうです。その日、いつも反抗的な息子さんが素直に行動しはじめたのだとか。

 そんなことは今まで一度もなかった、とお母さんはびっくり。子どもの話を受け止めただけで、親子の関係性が変わったんです。これで第1段階クリア!  スタート地点に立ちました。

 指示命令をし続けてきたそれまでの親子関係があるので、時間はかかるかもしれませんが、いつも子どもの言うことを受け止めることが日常的にできるようになったら、次の段階に行きましょう。

 たとえばニュースを見ながら、「お母さん、これがわからないんだけど、あなたはどう思う?」と質問したり相談したりします。

 ゲームの話で関係性ができると、親はついゲームの話でつないでいこうと思いがちです。でも、親が子どもを対等に信じて、「これ、どう思う? (あなたの意見を聞かせて)」と聞いてみる。

 ただし、すぐに素直に答えてくれて、親子関係が改善するみたいな変な期待はしないこと。

 何を聞いても「別に」「うるさい」「面倒くさい」「わからない」しか言わなかったら、しつこく追いかけないのもコツです。

子どもが逃げていくときに追いかけるのはNG。「残念!  バイバーイ」とあっさり引き下がりましょう。しつこくすると、せっかく築いた関係が元に戻ってしまいます。

 大空小学校でも、ありました。せっかく先生が自分を変えて、子どものほうから来てくれるような関係性ができてきたのに、あるとき、子どもに「うるさい、そんなん知るか!」と言われた途端、「ちょっと待て!」とか言って先生が怒ってしまった。

 これでほんの少しできた絆が切れて、マイナスのスパイラルにはまってしまうんです。そんなときは、笑いで終わらせる、しつこく追いかけない。

 私は学校でも、「それは残念!」などと言って軽くおどけながら子どもから離れるようにしていました。そうすると不思議なもので、「なんで人がしゃべってる最中に出て行くねん」とぶつぶつ言いながら子どもが帰ってきたりします。

 軽い笑いに変えると、「あなたは悪くないよ。そういうこともあるよね」という空気になります。こういうときにその場がスカッと軽くなるような言葉をいくつか持っておくといいですね。関西人はちょっと有利かな(笑)。

■子育てに大事なたったひとつのこと

 この文章を読んでいるお母ちゃんたちも今、意図的に変わろうとしているときですよね。でも今まで何年もかけて子育てしてきた関係性を、急に変えることはできません。親の勝手で、親の都合で親が変わるわけですから、子どもが急にその穴を埋められるわけがないと肝に銘じて、子どもに学ばせてもらう気持ちを忘れないでください。

 どれだけ子どもを一人の人間として尊重しているか。これが大事なんです。

木村 泰子 :大空小学校初代校長

東洋経済オンライン

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