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「給食まで母親と一緒に」一人で学校に通えない子どもの現実

小中学生の自立を育むための家庭教育論をベースに家庭教育支援と不登校支援のアドバイザーとして活動をする水野達朗氏と山下真理子氏。

同氏の著書である『これで解決! 母子登校 不登校にしない、させない家庭教育』では、不登校の前兆ともいわれる母親の付き添い登校(母子登校)を早期に解決するために大切な家庭教育のあり方を、具体的にマンガで示しています。

本稿では同書より、不登校のかげで今急増していると言われる一方で、学校の教育現場や社会であまり課題視されていない母子登校について紹介します。

※本稿は『これで解決! 母子登校 不登校にしない、させない家庭教育』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。

不登校のかげで、増える母子登校
母子登校という言葉を知っていますか?

母子登校とは、お母さんやお父さんと一緒でないと子どもが登校できない状態のことを指します。ケースによっては祖父母のつきそいで登校していることもあります。

多くのつきそい登校の事例の対象が母親であることをふまえ、このような家族の大人のつきそいがないと登校できない状態のことを総称して母子登校と表現されています。

母子登校の事例では、朝になると登校の不安が強くなって、リビングでうずくまったり、玄関でランドセルを背負って固まったり、時には「学校が怖い」と泣き出すこともあります。

はじめは、叱ったりなだめたりしながらなんとか登校させるのですが、どこかのタイミングで親も「これはちょっと一緒に登校してあげないとどうしようもないな」と判断されるときがやってきます。そしてそれが日常化していくのです。

登校に関する課題の代表的なものとしては、母子登校よりも不登校を想像される方が多いのではないでしょうか。

文部科学省では、不登校について毎年調査がされており、 『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果』にまとめられています。

近年は驚くほど不登校の子どもたちは増加傾向にあるのです。

とくに平成28年度からは、年間で1~2万人ずつ増加しており、令和元年度の最新調査によると、前年度の16万4528人よりも1万6744人増加し、18万1272人の児童生徒が不登校であるという結果が出ました。

しかし母子登校は指導要録上「欠席」扱いにならず、不登校の統計上の数字にあがらないことで学校現場からも社会からも課題視されにくいのです。

ですので、当然ながら学校現場では、母子登校よりも不登校のほうを課題視して対応をします。

結果として、残念ながら保護者の悩みに寄り添うことや、どのように解決をめざしていくかという相談までにはいたらないことが往々にしてあります。

そうした状況で、不登校や家庭教育に関する支援機関へのご相談内容としては、不登校に次いで母子登校についてのご相談が多くなっています。15年ほど前と比較すると、年々、母子登校のご相談は増えてきています。

母子登校についての悩みをわかってくれる人がまわりにおらず、ひとりで抱え込んで精神的にしんどくなってしまうケースがほとんどです。

日々保護者のみなさんの悩みを聴いてきた支援者としては、学校現場や社会が母子登校を課題視するところから始める必要があると感じています。

子どもが登校しぶりをしたら
初めてわが子が学校に行きしぶる姿を見ると、

「体調が悪いのかな」
「さぼり癖がついたか」
「学校でいやなことがあったのか」
「このまま不登校にならないか心配」

など、さまざまな未来を想像して親は不安になります。多くの親御さんは、わが子の登校しぶりに対して、まずはいつもどおりに起こして登校を促そうとされます。

なぜなら一度休むことを認めてしまったら、今後も休み続けてしまうかもしれないからです。

この判断が正しいかどうかはケースバイケースです。

多くの母子登校でお悩みの保護者からのご相談や子どもたちのカウンセリングをしてきましたが、

「もっと登校を促してやればこんなに長期化しなかったのに」というケースもあれば、

「無理に登校を促さずに寄り添って腰を据えてお話を聞いてやればよかったのに」というケースの両方があるわけです。

いずれにしても、初動の対応が重要なことに変わりはありません。

促す方向で行くのか、いったん休ませてでも腰を据えて寄り添いながら登校を考えるのか、ご夫婦の対応の方向性をそろえておくことが大切なのです。

低学年の子どもの場合、親からすれば「?」となることが多いです。

行きしぶりの理由が先生にあるのか、友だちにあるのか、特定の授業にあるのか、学校全体にあるのか、または親子関係にあるのか、発達障害のグレーゾーンではないかなど、さまざまです。

しかし、その内容には「それなら休もうか」と決断できる材料はあまり出てこないことが多いです。

行きしぶり初期段階は子ども自身も混乱していますし、明確な理由が具体的に出てきにくいことと理解しておきましょう。

通えているから楽というわけではない
母子登校は、不登校に比べて、家に引きこもっているわけでもないし学校にも母親が一緒であれば行くことができているのだからという理由で、社会的にもあまり問題視されていない傾向があります。

「子どもの成長とともに母子登校は自然と解決するから、いまのまま母親は学校までつきそってください」というアドバイスを学校やカウンセラーからされるケースもあります。

しかしながら、母子登校で悩んでいる親御さんにとっては、単純に「不登校の子よりは楽でよかったわ」とは考えられません。

母子登校といっても、ケースはさまざまです。

校門まで一緒に登校するというケースもあれば、教室まで一緒に登校、もしくはお母さんがいないと不安だという子どもだと教室の中までお母さんに入ってもらい授業中もつきっきり、なんていうこともあります。

母親にかかる精神的、身体的、時間的負担のことを考えると、母子登校状態は不登校状態と比べても、その悩みは決して少なくはありません。

このような母子登校の特徴としては、お母さんの負担がとても大きく、がんばるお母さんが疲れてしまいやすい傾向があります。

お母さんによってはお仕事をしている方もいらっしゃいます。

母子登校のケースでは、朝から子どもにつきそって学校まで行かなければならないため、職場に迷惑をかけることもあります。

また、主婦の方も決して暇ではありません。

毎日、給食の時間だけ学校へ行き、子ども用の机とイスに座って心からの笑顔で給食を食べられるお母さんが、果たしているでしょうか。

「子どものことを考えれば、これくらいの労力はしかたない。私がつきそったら子どもは学校には行けるんです」とおっしゃる方もいます。

授業参観などでわが子の学校での様子を見るのは、親にとって幸せな瞬間だと思います。

しかし、毎日ひとりだけ教室の後ろに立って自分の子の授業風景を眺める親の気持ちを考えると、胸が痛みます。

多くの専門家は残念ながら母子登校になってしまった「子ども」を分析しがちです。

小学校の母子登校のケースでは「子ども」ではなく、家庭教育の当事者である「親」を分析していくことで、子どもがなぜそのような状況になってしまったのかが見えてくることがあります。

お母さんから離れるのをいやがったり怖がったりすることで母子登校は始まります。

もちろん学校環境にうまく適応できずに母子登校になっているケースもありますが、それも鶏が先か卵が先かの話です。

子どもではなく家族をひとつの支援対象ととらえて分析を進めていくことが、母子登校の解決につながるのです。

水野達朗(大東市教育委員会教育長),山下真理子(家庭教育アドバイザー)

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