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子どもをどう守る 教員の性暴力防止法に識者が見る課題

5/28(金) 15:00 朝日新聞

児童生徒へのわいせつ行為で懲戒免職になった教員に、失効した教員免許を再交付しない権限を都道府県教育委員会に与える新法が28日、成立した。識者はどうみるのか。


■子どもを守る視点が欠落、今後が焦点

 佐久間亜紀・慶応大学教授(教育学)の話 教職の専門性や教育する人の責務を考えれば、性暴力で処分された教員が教員免許の再交付を受けられないようにする道を開いた点は評価できる。しかし、疑いがあるときに、子どもを守りつつ事実関係を公正に確認する体制をどう整備するかは明確に定められていない。事実確認の面接そのものが子どもをさらに傷つける恐れがある中で、教員が認めない、あるいは警察が犯罪と判断しないようなケースについては、どのように事実関係を確認するのかが課題だ。

 新法18条は子どもから相談を受けた教職員に対しての通報義務を定め、さらに犯罪の疑いがあると思われるときは警察署への通報も規定している。しかし、通報義務を課せられて同僚を告発しなければならない教員を守るための制度は何も記されていない。

 また、14条では性被害防止教育の義務を幼稚園や学校に課した。今後は教育内容を学習指導要領にきちんと位置づける必要がある。2003年に東京都の養護学校で性被害を防止するための教育が「わいせつ」「不適切」などと一方的に非難され、当時の校長と教職員が処分された事件(最終的には裁判で処分は取り消し)があってから、教育現場では性教育が非常に行いにくくなっている。

 たとえば、家庭で親から性的虐待を受けている子どもが教室にいる可能性もあるため、授業の実施には入念な準備やアフターケアが必要となる。そのための体制づくりも急務だ。教職員と子どもが安心して学習に取り組める環境を整えなくては防止教育の実効性は上がらないだろう。

 性被害の防止には、子どもに人権があること、たとえ教員であっても子どもの人権を侵害してはならないことを教える教育活動の積み重ねが最も重要だ。そうした土台作りの教育や教員研修も必須だ。研修を効果的に実施するためにも、すでに教員が過労死するほど追い詰められている労働実態の改善が求められる。

 新法そのものは、加害教員を二度と教職につかせないという理念だけで、子どもを守る視点、告発した教員を守る視点、性被害を防ぐための土台づくりの視点が欠けていると言わざるを得ない。ただ、そうした視点は付帯決議には盛り込まれた。それらを実現するため、運用の詳細が決められる省令をどれだけきちんとしたものにできるかが、今後の焦点になる。(編集委員・大久保真紀)

朝日新聞社

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