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登校苦しい子に精神科医が「堂々と欠席」勧める訳
2021年05月22日
5/22(土) 19:31 東洋経済
登校に抵抗のある子に対する問題解決の手段として「休む」ことを提案しているのが、精神科医として日々多くの子どもに接している井上祐紀氏です。では、休んでいる間、親は子に対してどのように向き合っていけばよいのでしょうか。その方法について、新著『学校では教えてくれない自分を休ませる方法』を上梓した井上氏が解説します。
前回:登校が辛い子の親に教えたい「休む」という選択
■「休む」とは「休息をとってリフレッシュすること」
「休む」という言葉から、あなたはどんな印象を受けるだろうか。学校を休む、部活を休む……。「休む」には、「するべきことをしていない」といったネガティブなイメージがつきまとっていることも多い。
しかし本来の「休む」とは、休息をとってリフレッシュすること。誰にとっても絶対に必要なことであり、子どもの場合は、何らかの事情から自分を休ませるために「学校に行かない」という選択をすることもある。私はこうした場合の欠席を、「不登校」ではなく「自主休校」と言い表すのがよいと考えている。
子どもが焦りや後ろめたさを感じずに休むためには、「堂々と休めること」が重要である。そのために欠かせないのが、親のリード。特に長期欠席をする場合、「本当は行くべきなのに休んでいる」のではなく、「学校に行かないのが普通」という雰囲気づくりが必要だ。
しばらく学校を休むと決めた場合、私は親子で「自主休校式」をすることを勧めている。目的は、休んでいる間の「生活の決まりごと」を家族で共有すること。ただしここでいう「決まりごと」は、親が決めて子どもに守らせる、というものではない。
自主休校式の最初のステップは、今の状態を正しく知ること。それによって「休むこと」の目的と手段がかわってくるからだ。まずは子どもが、次に解説する4つの段階のどこに当てはまるのかを見極めてほしい。
今の状態がわかったら、その段階の目的と手段、それに合う「行動の提案リスト」を書き出す。このリストは、子どもが自分でつくるのが理想である。できあがったものを家族が見られる場所に貼れば、休校式は終了。
このリストは、決して「しなければならないこと」ではない。子どもにとっては、何をしようかな? と思ったときのヒントにするためのもの。親にとっては、「子どもの状態に合った期待」を確認するためのものである。
第1段階から第4段階までは、階段を1段ずつ上るように進んでいくもの。子どもの「今」に合う生活をすることが、ステップアップにつながる。
■自宅では十分に休めないこともある
①身の回りの安全を確保する段階
本人のつらさが最も大きい段階。いじめや暴力の被害など、深刻な問題が背景にある場合が多く見られる。
こうした場合、「学校に行くのを避けざるをえない」と感じさせる問題が解決するまでは、登校する必要はない。いじめられたり暴力をふるわれたりする環境は、安全とはいえないからだ。第1段階では、子ども自身が「自分は安全だ」と感じられるようになることが学校を休む目的である。
この段階できちんと判断したいのが、子どもが安全をおびやかされると感じているのが、学校だけなのか? ということ。学校だけに問題があるなら、自宅が安全な場所にある。しかし、家族のだれかとぶつかり合うことが多いような場合、自宅では十分に休めないこともあるのだ。
そういった場合は子どもと話し合い、本人が安全を感じられる場所(図書館などの公共の場所や親類の家など)で過ごせる時間をつくる工夫が必要である。
家族との関係に問題を抱えている場合、解決法を見つけにくいこともある。そんなときは親子で抱え込まず、自治体の子育て支援窓口や児童相談所などを利用して、第三者にアドバイスを求めることを試してほしい。
②睡眠や食事のバランスをとる段階
安全は守られているけれど、食事や睡眠が学校生活に影響を及ぼすほど乱れてしまっている段階。いきなり規則正しい生活を押しつけるのではなく、まずはきちんと食べることや、眠る時間と起きている時間を分けることが目的になる。体調を整え、健康をとり戻すことを最優先しよう。
この段階にいる子は、「何もできそうにない」という気持ちになってしまっている。好きだったはずの趣味などでさえ、楽しめなくなっていることがほとんど。
勉強や手伝いなどは求めず、「毎日お風呂に入る」「気が向いたら近所を散歩する」など、日常的なことができるようになることを目指そう。本人が焦って勉強などを始めようとしたら、親が止めるぐらいでいい。
食事に問題がある場合、本人の希望を聞いて食事の時間を決める。時間になったら、おなかがすいていなくても食卓につくことを習慣にする。
睡眠が乱れているときは、まず昼夜逆転でもいいので、本人が決めた時刻に寝て起きるリズムを作る。リズムができてきたら、少しずつ時間をずらし、通常の生活リズムに近づけていくといいだろう。
■好きなことをさせて活発さを取り戻す
③好きなことならできる段階
食事や睡眠など基本的な生活リズムは整っており、趣味の活動などであればやってみようかな、と思える段階。第3段階の目的は、自分の好きなことをして、「おもしろいことをおもしろいと思える」ようになること。
この時期にとり入れる活動は、子ども自身が好きなことならなんでも構わない。もともと好きだったことでもいいし、興味を覚えた新しいことを始めてみてもいい。マンガを読む、ゲームをする、スポーツをする……。大切なのは、本人が心から「楽しい」「おもしろい」と思えることだ。
注意したいのは、食事や睡眠のリズムを乱さないこと。ゲームが好きならゲームを楽しむのはOK。ただ、夢中になりすぎて食事を抜いたり、睡眠時間を削ったりしないよう注意は必要だ。
大人には、学校を休んで好きなことだけしているのは単なるわがままのように見えてしまうかもしれない。でも、勉強をさせようとするのはまだ早い。学校に行けないほど追いつめられている状態から抜け出すためには、「楽しめるようになる」段階が絶対に必要。今、目指すべきなのは、好きなことをして心地よさを感じ、活発さをとり戻すことなのだ。
④未来に向かって動き始める段階
自分の好きなことを楽しみながら、未来にも目を向けられるようになる段階。自分はこれからどうしたいのか、そのために何をするべきかを考え、少しずつ実行に移していくことが第4段階の目的だ。
学校を休んでいた場合、親は「以前と同じように登校すること」を最終目標にしがちです。でも子どもは、学校に戻りたいと思っているとは限らない。学校より先に塾に戻りたい、学校ではなくフリースクールに通いたい……。自分の未来について子どもの出す答えが、「学校に戻ること」以外のものである可能性も想定しておこう。
■頭ごなしに反対するのは逆効果
子どもの希望の中には、「学校をやめて俳優になる!」のような、やや突拍子もなく、親として応援しかねるものもあるかもしれない。
そんな場合も頭ごなしに反対するのは逆効果。「学校には行かなくちゃダメ!」では親の期待を押しつけられているようで、子どもは疎ましく思うはずだ。
でも、「やりたいことが実現できるよう応援したい。そのために今の学校生活のデメリットとメリットの両方について考えてみない?」というアドバイスだったら、親が自分の気持ちを尊重してくれたことを感じとり、耳を傾けたくなるかもしれない。
まずは今の子どもがどういう段階にいるかを見極め、その子に合った目標設定をする。目標が完全にできるようになったら次のステップへ。あせらず、1段ずつ上っていくことが重要だ。
自主休校式を経た親子のかかわりが、これまでよりも少しだけ快適になることを願っている。
井上 祐紀 :精神科医(子どものこころ専門医)
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19:31
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