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子どもへの「早く起きなさい!」の言葉が危うい理由
2021年03月23日
小中学生の自立を育むための家庭教育論をベースに家庭教育支援と不登校支援のアドバイザーとして活動をする水野達朗氏と山下真理子氏。
同氏の著書である『これで解決! 母子登校 不登校にしない、させない家庭教育』では、不登校の前兆ともいわれる母親の付き添い登校(母子登校)を早期に解決するために大切な家庭教育のあり方を、具体的にマンガで示している。
本稿では同書より、家庭教育を行なう上で親が持つべき意識や注意しなければならない言動ついて、ついイライラしてしまいがちな朝の時間を例に紹介する。
※本稿は『これで解決! 母子登校 不登校にしない、させない家庭教育』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです。
“子どもに失敗させたくない“という考えは危険
子どもが小学校に進学すると、多くの親御さんは朝の対応に追われます。
朝起こしに始まり、朝ご飯、身だしなみチェックに、遅刻しないように家を出発させるなど、家庭によってそのご苦労はさまざまです。
子どもが布団からのそのそと起きた瞬間から…
「いつまで寝てるのよ。毎日同じこと言わせないで!」
「寝ぐせついたままよ!いい加減にしなさい」
「ほら早く食べなさい!前にも遅刻しかけたでしょ、バカ!」
「ハンカチ持った?もう!水筒も忘れてるじゃないの!」
と始まってしまうことも多いのではないでしょうか。
このように朝に一生懸命になって対応されている親御さんは愛情にあふれた親だといえます。
「今日は子どもをどう叱ってやろうか」
「さて、どうやってあの子の自尊心を傷つけてやろうか」
などと思いながら目を覚まし、子どもたちの朝食を作る親は、まずいませんよね。
しかしながら、近年はその愛情が子どもの自立心や社会性等の成長につながらないケースがとくに増えてきているように感じます。つまり「過干渉」や「過保護」といわれる対応です。
一生懸命な親御さんであればあるほど、子どもに失敗させたくないという気持ちが強く、先回りして子どもが失敗する経験、失敗から学んで起き上がる経験を奪ってしまうことにつながります。
このような家庭教育で育った子どもは幼かったり、わがままだったり、極端に打たれ弱かったりと心配な傾向が強まることが、支援の現場ではよく見受けられるのです。
“イライラ“しがちな朝だからこそ“ニコニコ“を意識する
朝の対応はどのように接していくのが良いか考えてみましょう。
多く見られるのは、親御さんが「時間だよ」、「朝だよ」、「起きな」と子どもに声をかけていたり、子どもの身体をゆすったりして起こす対応です。
何気ないいつもの朝の風景に見えますし、実際子どもの頃そうやって起こされたという親御さんも多いのではないでしょうか。
しかしこれらはやってはいけない起こし方なのです。
親御さんが声をかけて、それを聞いてから起きることが習慣化してしまうと、子どもは自分から時計を見て起きることができなくなってしまいます。
親御さんが声かけをやめない限り、子どもは時間に対する意識が低いままになるのです。
ゆすって起こすのも同様で、親御さんにゆすってもらわないと起きれない子どもになってしまう可能性があります。
親御さんは「7時よ」というように時間の告知のみを行なうようにしましょう。
子どもは時間を聞いて自分で起きるか起きないかを決められるようになるので、親御さんの指示待ちではなく、自立に一歩近づくことができます。
また朝は脳が覚醒しておらず、時間も限られているためつい感情的になりイライラしてしまいがちです。親御さんも朝は子どもの細かいことを気にしすぎず、自分のことに専念するのもよいでしょう。
朝のスタートをイライラではなく、ニコニコ過ごすように気を付けてみてはいかがでしょうか。
否定的なコミュニケーションは自己肯定感が失われるきっかけに...
お母さんのイライラは朝だけではありません。
毎日毎日、おやつを食べる前には「手洗いうがいをしなさい!」と言っているのに親がいちいち言わないとしない。
宿題にすぐにとりかかってほしいのに、ランドセルは廊下に置きっぱなし。食べたおやつのゴミは散らかしっぱなし……。
ちゃんと育てようという思いが強い親御さんであればあるほど、イライラは募るのではないでしょうか。
親だって学校でがんばってきたわが子をねぎらってあげたいし、今日学校であった出来事を笑顔で聞きながらお話ししたいですよね。しかし、気がついたら
「それはダメ。こうしなさい」
「何度言ったらわかるの?いい加減にしなさい」
と口うるさく言ってしまっていませんか。
このような否定的な交流のことを「マイナスのストローク」といいます。
マイナスのストロークとは存在や行動を否定的に表現する関わり方です。子どもが健全に成長していくためには親子の良質なコミュニケーションが重要です。
家庭教育では自分の存在を肯定してくれるような「プラスのストローク」が大切なのです。
プラスのストロークとは、先ほどのマイナスのストロークとは逆で、存在や行動を肯定的にとらえる交流を意味します。
とくに小学校低学年の時期はプラスのストロークが心の栄養となり、自己肯定感を育んでいく土台となります。
逆にマイナスのストロークが日々蓄積されていくようなコミュニケーションが親子間で日常的になってしまうと、子どもの心の中で、
「お母さん私のことキライなのかな」
「私なりにがんばってるのにパパは認めてくれない」
「私はダメな人間なんだ」
と、自己肯定感が失われていくこともありますので、注意が必要です。
親も失敗して当たり前
いざ意気込んで家庭教育への取り組みを始めようとしても、これまで「子どものためによかれと思って」やってきたことを変えなければいけないというのはたいへんなものですよね。
それが少し意識を変えればいいということだけではなく、時には根本から180度変えなければならないとなればなおさらです。
よかれと思ってやってきたことが、実は子どもにとっては毒になっていたのかもしれないと認めるのは、愛情深い親御さんたちにとってはショックなことだと思います。
お母さんもまさか朝の声かけひとつからこんなに指摘されることになろうとは夢にも思わなかったことでしょう。
しかし、このような状況にいたっているご家庭は実際多いのです。
個々にご夫婦のカウンセリングを行ったうえで、アセスメント(分析・見立て)をし、具体的にどこをどう変えていけばいいのかのアドバイスをすると、
「でも先生、他の家庭の話もママ友のつながりで聞くことがありますが、どこの家庭も起きなさいよー、という声かけで起こしているって聞きますよ。私自身も昔はそうやって起こしてもらっていたように思います」
という質問が返ってくることがあります。
実際、このご家庭のように声かけをして朝起こしていたとしても、問題は起こらないという家庭もあります。
親が特別に対応を変えなくても、知らず知らずのうちに子どもが失敗を経験しながら成長し、ひとりで起きるようになっていくような子どもたちもいます。
そういったお子さんであれば、ここまで親が試行錯誤しながら対応をとってあげる必要はないのかもしれません。
しかし、目の前のお子さんを見ていて
「とても繊細だなぁ」
「なんだか他の子に比べて幼く見えるときがあるなぁ」
「なんでも親を最初に頼ろうとするところがあるなぁ」
と感じられている場合は、わが子に適した家庭教育のあり方を再構築していくことはとても大切なことだと思います。
もちろん、最初は
「え。そんなことも子どもに影響を与えていたの?」
「いままで感覚的にしてたことがマズかったの?」
と文字どおり打ちのめされることでしょう。
しかし、誰からも教わらずに掛け算をできるようになる人がいないのと同じように、親御さんも最初はたくさん失敗して当然。
そこから学んで成長していくのだという姿を、まずは親御さんの背中で見せていきましょう。
水野達朗(大東市教育委員会教育長),山下真理子(家庭教育アドバイザー)
PHPオンライン衆知
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